辻 一毅 オーナーシェフ(菌カフェ753)のインタビュー

菌カフェ753 辻 一毅 オーナーシェフ

菌カフェ753 辻 一毅 オーナーシェフ TSUJI KAZUKI

学生の頃、アルバイト先のスナックで、有名老舗店で腕をふるっていたシェフと出会い、直接料理指導を受ける。その後、パスタ屋で勤務。パスタ屋の顧問で「この人から学びたい」と魅力に感じたシェフのいるお店へ3度直接アタック。断られた後、4度目で働くことを認められ、フランス料理を学ぶ。海外出身のシェフと話すうちに「自分の出身国である日本の料理をどこまで知っているのか」ということを疑問に思い、掘り下げていき、学んで行く中で発酵調味料の深みを知る。「菌カフェ」「ツジケ/Tsuji-que」 をOPEN。

負けず嫌いで“やってやる”と何でもくらいついて探求してきた原点

シェフになろうと思ったきっかけは、負けず嫌いだったことですね。

学生の頃、早く一人暮らしをしたくてその資金のために、スナックのアルバイトを探していたんですね。偶然、面接を受けたお店で、世界的に展開した老舗鉄板料理店で働かれていた異色の経歴のシェフがいたんです。私はただ「働きたい」と言っただけなのに、厨房からパンチパーマの親父が出てきて「料理をやりたいのか。うちは厳しいぞ。いいのか?」と一声から始まり、なんだ?と思いながらも「はい」と答えました(笑)

実際にちょっとでも間違えたら、手が出る感じでね。味見なんかも結構しっかりとさせてもらったり。ひたすら、くらいついて学びましたね。尊敬というよりも「負けてたまるか」という感じでした。そこで料理も上手になってくると、どんどん人に料理をふるまいたくなってきたんです。それでスナックをやめてパスタ屋さんでアルバイトを始めると、もうすでに腕がアルバイトではなかったというか(笑)めきめき待遇も良くなっていったんです。そのパスタ屋さんには偶然にも有名なフレンチのシェフが顧問でいたんですね。そこで「この人から学びたい」と魅力に感じたシェフのいるお店へ3回直接アタックしました。3回目断られた後、4度目に食事に行って、またそこでアプローチしました(笑)そしたら「週1でもよければ」とそこで働けるようになって段々と日数も増えてきて、本格的にフランス料理を学びました。

今の立場になって思うのは、技術があるかというのは二の次で、「情熱があるか」「とりあえずやってみる素直さがあるか」「探究心があるか」というのは大事でしょうね。私はそういうのを持って、やってきたんでしょうね。

フランス人シェフと議論でハッとしたきっかけ・母国の料理と向き合う

フランス料理をやっていてフランス人のシェフと話していると「俺の国の料理は」と胸を張って誇りを持っているんですね。それで決まって自慢するのは母親の料理なんですよ。「うちのおかんのコンフィは最高だぜ」とかね。でも、和食といえば、そば、天ぷら、ラーメンなどジャンルは世界中に普及しているのに、なぜおかんの料理自慢をする人があまりいないのか・・・なぜ料理に国の名前はつかないだろうと。外国人のシェフに「何か日本の料理を作ってよ」と言われても返せるものがなんもないや、と思って恥ずかしくなったんです。そこで振り返って考えると、そうだ「味噌」「醤油」だと。家庭に味噌、醤油がない人はいないでしょ?そこに着目し、見渡してみると、友達に醤油を作っている人もいたんです。

うちの店は醤油も味噌も醸造許可を取得し、販売もしているんですよ。これはうちの店の特徴でもありますね。

料理も一期一会の出会い・調味料が美味しければ

菌カフェでは、色々な調味料を仕込んでいて怪しい瓶がたくさんあるでしょう(笑)看板メニューもあるけれど、無農薬の野菜、スパイスやいちから手作りの調味料もその時々の一期一会なんです。来られる度に、その日の味わいを楽しんでいただけると思います。

マニアックなラインナップの発酵ドリンクや発酵スイーツも人気で、ドリンクス専門のスタッフ、専属のパティシエもいるんです。でもそれは特別なことではなくて。今は発酵が流行りすぎちゃって、イメージが一人歩きしてハードルが上がっているところがありますよね。でもね、醤油かけたらそれは「純日本料理」なんですよ。

私は「純日本料理」というジャンルを立ち上げたいと想っています。勝手にだけど(笑)ちゃんとした調味料があれば料理は難しくないんです。料理って保存食から始まったものだから。焼くことも料理だけど、仕込みという概念・・・例えば「魚がたくさん取れちゃった」「どうしよう。一気に食べられないや」その辺に干からびてきた魚を食べたら美味しかった、「あ、その辺に塩があるぞ!これ使ってみようか」「お酒に漬けてみたらどうだろう・・・」そういうのも料理なんですよ。

居酒屋でおかん料理の議論で盛り上がるような世の中に

この店が特別で、他で広めないでほしいという意識ではやってないんです。菌カフェで仕込みや方法、考えを学んでくださって「菌カフェ」のようなお店が増えたり、勝手に広がっていってくれたらなぁと思います。だからうちではスタッフさんが辞める時も「卒業」というんですよ。あそこでやったことを他でやったら怒られるというのではなくてね。

「純日本料理」が広がって、「おかんの味噌で作った味噌汁がうまいぜ」「うちのおかんのおむすびの方がうまいんだぜ!」「うちのは梅干しから作っているんだぜ!」そんな喧嘩が居酒屋で繰り広げられたらいいですよね(笑)その会話を聞きながら飲めたらいいですよね。

地域の皆さんへメッセージ

地域って結構深くて。知っている人たちはガチッと結びつきやすいのだけど、これが結びついているとそうなるとそれで目立って、他の人が入りにくくなる側面がありますよね。そこもぐるっと循環するような地域になればいいなと思います。その取り組みが大家さんや仲間たちとやっている草の根活動の「753(なな・ごー・さん)プロジェクト」ですね。

「菌カフェ」も入りにくい場所じゃないので、お食事しなくてもいいし、お気軽に踏み入れていただければ嬉しいです。

 

※上記記事は2023年6月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。

菌カフェ753 辻 一毅 オーナーシェフ

菌カフェ753辻 一毅 オーナーシェフ TSUJI KAZUKI

菌カフェ753 辻 一毅 オーナーシェフ TSUJI KAZUKI

  • 出身地: 神奈川県
  • 好きな本・愛読書: 哲学関連の本、トッチ著「神聖幾何学」シリーズなど
  • 好きな映画: 日本のアニメーションはメッセージ性があり注目している
  • 好きな場所: この「菌カフェ」の空間、山、海、川など自然のあるところ、神社

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